さよならグルメシティ

最近、といってもここ数年、いやここ十年かもしれないが、ただ酒場で酒とつまみを飲っていたり、なんの変哲もないレストランや食堂でただただご飯を食べてみたり、ちょっとクセのありそうな自炊をしてみたりする漫画作品が増えている。

ウンチクグルメものや純粋なグルメバトルのような作品はまだまだあるのかもしれないが、さりとてもメインジャンルでは無くなっている気がするのである。

私が現在生業としているタイムマシンの行商でK市に行ったときのことだ。応接部屋を改良した鄙びた控え室でいつものようにコンビニエンスストアで買った冷やしたぬきうどんとおにぎりを食べていると、小太りの先輩がややあって入ってきた。彼もコンビニエスストアに寄ってきたらしく袋を下げていた。

特に親しいわけでもなく簡単な挨拶を私と交わしたあと彼は買ってきたお昼を広げ始めた。やはり私と同じ外回りの体には冷たい食べ物が不可欠なのだろう。冷やしうどんとおにぎりである。

しかしその後袋から出てきた物を観て私は驚いた。少し太めの長い茶色い物体。イチゴマーガリンサンド・コッペパンである。

私はその物体をみたとき一瞬ハッとしたが、すぐ思い直した。きっとこれは午後の仕事中に食べるためのおやつ代わりのパンなのであろう。わたしは目の前にあるうどんに目をおとし、ふたたびやっつけ始めた。

すると驚いたことに彼はパンの包み紙を破き、うどんを片手にパンを食べ始めたのだ。さらにはおにぎりも同時に食べ始めていた。やがて私の目の前でイチゴマーガリンサンド・コッペパンとおにぎりとうどんは彼の体に取り込まれていったのであった。

砂糖のたっぷり入ったコーヒーを飲み干してウトウトし始めた彼を見ながら、是非ウンチクだの名店だの食べ合わせだのそういった概念を全くはねつける、ただただ食べたいものを食べたい量だけ本能のままに食べ続ける「地獄めし」をテーマにしたどうかしているうらぶれた雑誌で連載されている漫画を読みたいと思いながら、私も本能に身を任せ、目を閉じることにしたのだった。